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■현대 일본 도시주택/2000~

Kyodonomori

by protocooperation 2015. 10. 16.

「経堂の杜」の試み。

環境共生+つくば方式+コーポラティブ+スケルトン・インフィル+パッシブ・ソーラー+壁面・屋上緑化+ビオトープ……。

集合住宅にできること。

「経堂の杜」は、パッシブ・ソーラー・システム、屋上と壁面の緑化、ビオトープ、外断熱、ペアガラス、施錠のできる網戸や格子戸、パーゴラ、風の道など、環境共生をコンセプトの基につくられた12戸からなる集合住宅である。

ここでは、その環境共生型集合住宅を実現しつつ住まい手自身が望む住戸を手に入れるためコーポラティブ方式が選ばれた。また環境共生を実現させるための費用を捻出するために、土地を購入しない「つくば方式」と呼ばれるスケルトン定期借地方式が採用されている。

集合住宅は単に住戸の集まりではない。集まることによって生み出される余裕を積極的に活用することで、より豊かな住環境を創出することができるのではないだろうか。

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世田谷に森をつくって住む。

甲斐徹郎(「経堂の杜」コーディネーター/チームネット)

世田谷に森をつくって住む。

「経堂の杜」での環境共生手法の基本は、パッシブデザインを基にしている。パッシブデザインが有効に機能するためのポイントは、外に十分な環境ポテンシャルがあって、そのポテンシャルをフルに活用することであるが、世田谷のように地価が高く、宅地が細分化され、自然の要素がどんどん失われている地域でパッシブデザインを十分に機能させるためには、建物のプランを考える前に、外の自然環境を積極的に整えることが求められる。そうした発想から、「世田谷に森をつくって住む」という考え方がこのプロジェクトの基本的な事業コンセプトとなった。

「経堂の杜」における「森づくり」(外環境の整備)の中身は、次の4つの部分から成り立っている。

1)樹齢120年という、5本の巨大なケヤキの保全。

2)敷地南側に確保された空地への落葉樹を中心とした植栽。

3)東西面の壁面緑化と南面のパーゴラを利用した緑化によって、建物全体を緑のベールで覆いつくす。

4)屋上の緑化(土厚40cm)

こうした緑化計画によって建物全体が緑ですっぽりと覆われて小さな森が形成され、その緑のヴオリュームがつくりだす穏やかな微気候環境(環境ポテンシャル)は、建物のパッシブなつくりによって各住戸へとつながれる。

具体的には、建物のパッシブな計画要素は次のような内容である。

1)冬の日射を考慮し、懐の深い共用庭を南側に配した建物配置。

2)夏の風の取込みを考慮し、建物を2棟に分割することで風の道を設置。

3)冬の日射と夏の夜間冷気をコンクリート躯体へ蓄熱させるための外断熱。

4)全住戸ペアガラス使用による断熱性能の向上。

5)夏の夜間冷気の十分な活用のための防犯ガラリ戸などの工夫。

以上のように、積極的に整備された「自然環境」と、パッシブデザインを考慮した「建物」とが一対となって、全体としてひとつの大きな「天然の空調装置」として機能するように計画されている点が、「経堂の杜」の場合の環境共生としての特徴である。

こうした計画によって、実際にどのような効果を期待することができるのかを見てみよう。

「経堂の杜」の各住戸の建築計画段階では、コンピュータによる熱環境のシミュレーションを実施し、パッシブシステムによる効果を確かめながらプランづくりが進められた。そのシミュレーションの結果の一部を次に紹介しよう。

夏のパッシブクーリング効果(Y邸の場合)

※シミュレーション条件:シミュレーションソフト「ソーラーデザイナー41」を活用。「経堂の杜」にもっとも近接したアメダスの測定ポイントである府中市の過去8年間の気象データに基づき、夏は8月、冬は1月の平均的な気象条件を設定してシミュレーションを行った。

理想的な条件が整った場合、グラフ1のように、まったくクーラーを活用しない状態で最高室温271°Cという結果を得た。この場合の理想的な条件とは、全開口部からの日射を一律70%カットし、夜の7時から朝7時まで徹底的に換気し(換気回数:20回/h以上)、夜間冷気により室内側のコンクリート躯体の熱容量を活かし蓄冷する、朝7時から夜7時までは高温になった外気を侵入させず、夜間蓄えた冷気を室内に綴じ込めるために窓を閉め換気量を絞り込むようにする(2回/h程度)、といった内容である。

こうした条件を実現させるために、Y邸では、パーゴラなどを活用して徹底して日射遮蔽を行い、地下勝手口と玄関、それにバルコニーに面したテラス窓にしっかりと鍵のしまる格子戸を取り付け、防犯対策が考慮され、十分な夜間換気を行なう用意が整えられた。

冬のパッシブヒーティング効果(○邸の場合)

一日中まったく暖房を使わない状態で、日射によるダイレクト・ゲインの効果のみによって、グラフ2のように明け方の最低室温が141℃という結果が得られた。外断熱による蓄熱効果がよく働いて、室温があまり低温にならない様子がよくわかる。この状況だと、実際は少し補助暖房を入れる程度で生活できるだろうと、その効果が期待される。

環境投資。

さて、こうして建物をつくるのと同時に「世田谷に森をつくる」という事業コンセプトを掲げたわけであるが、その事業化のポイントは何であろうか?それは、事業の中にいかに「環境投資」という予算枠を組み込むことができるかということにあった。実際に、「経堂の杜」では、一般的な住宅と比べて、壁面緑化、屋上緑化、パーゴラ、ビオトープ、外断熱、ペアガラスなどといった環境共生を実現させる要素に多くの費用をかけており、その金額を合計し、一般的な住宅レベルでの建築コストとの差額を算出してみると、おおよそ総額で7000万円、1世帯当たり600万円程度の費用負担をしている計算となった。

では、「経堂の杜」の場合、こうした環境投資費用をどのように捻出しているのであろうか?

そのポイントは次のふたつである。

1)共同化による空間の有効活用。

12世帯によるコーポラティプ方式が選ばれたのは、土地を細分化せず効率よく利用し、緑化スペースを確保するためである。共同化により環境投資のための空間を捻出した。

2)「つくば方式」の採用。

もうひとつのポイントは、「つくば方式」の採用である。「つくば方式」により土地を購入しないことで、資金的なゆとりを生みだし、その資金を豊かな環境づくりに活かそうという考えである。一般定期借地権に改良が加えられた「つくば方式」は、契約終了後(今回の場合60年後)に建物を壊さずに地主に譲渡できる点が、今回のプロジェクトには都合がよい。当初住人により整備された住環境は、長期にわたり良好な環境のストックとして保全され、次の世代の利用者へと受け継がれる。

コンセプト主導型コーポラティブ。

これまでのコーポラティブ事業と対比して今回のプロジェクトがユニークな点は、環境共生という明確なコンセプトを打ち出し、いわばそのコンセプトを実現させるための手段として、コーポラティブの手法が選ばれているということである。「経堂の杜」で追求されたものは、自分たちの生活を快適にしてくれる「装置」としての「自然環境」を創出することであった。「良好なコミュニティをつくる」とか、「自由設計」といった目的が主であったわけではなく、個人の力だけでは実現できない「自然環境」という、実利をもたらしてくれる「装置」をつくり出すための「共同事業」というのが今回の事業であり、そのための共同事業の手法としてコーポラティブ手法は、きわめて合目的な理由で選択されている。

コンセプト×ルール×マネージメント。

最後に、今回のプロジェクトを振り返って、今後事業を推進する上で、改善すべき反省点をまとめておきたい。それは、今回のプロジェクトのようにコンセプトが明確で、そのコンセプト力をベースに参加意識を牽引しようとする場合は、コンセプトのもつ「牽引力」とバランスがとれるだけのルールによる「抑制力」を準備することが重要である、ということである。今回のプロジェクトでは、この「抑制力」という点で片手落ちであったことを全体をマネージメントする立場として強く反省している。

コンセプト実現に対する参加者と専門家チームの意気込みは、計画上のスケジュールと予算を当初よりはみ出した勢いとなっており、その勢いを現実レベルに収束させるために混乱を招き、最終的には35ケ月の工期延伸と、実現できなかったことへの不満という、関与者全員にとっての不利益を招く結果となった。

コンセプトは、ルールと、それに則したマネージメントがあって、現実化するものであるということを次なるプロジェクトヘの教訓として強調しておきたいと思う。

 

スケルトン定借(つくば方式)が切り開く建築設計の可能性。

小林秀樹(建設省建築研究所)

「経堂の杜」は、環境共生を求めて建築に多くの費用と手間をかけている。普通の分譲や賃貸では経営的に難しいとされることである。

なぜ、それが可能になったのだろうか。その秘密は、「スケルトン定借(つくば方式)」と呼ばれる事業方式にある。

初耳の方は、参考文献をご覧いただくとして、簡単にいえば、土地を定期借地権にしてスケルトン(構造体)とインフィル(間取り内装)を明確に分離した集合住宅を安価に供給する仕組みのことである。

この事業方式を用いると、分譲や賃貸マンションに比べて、建築設計の自由度が大きく広がる。このことが、「経堂の杜」を事業面から支えている。

スケルトン定借による建築設計のゆとり。

自由度が広がる理由を整理してみよう。

①設計条件にゆとりが生まれる。

通常のマンション設計では、容積率をできるだけ高め、建築コストはできるだけ切り詰めることが求められる。そうしないと売れ筋の価格にならないからである。これに対してスケルトン定借では、土地を定期借地権にして価格を下げている。このため、建築に費用をかけても、住宅価格をサラリーマンの購入できる価格に納めやすい。

つまり、「経堂の杜」の秘密のひとつは、土地コストを下げることで建築や造園に費用をかけられるようにした点にある。

②明確なコンセプトを実現しやすい。

スケルトン定借事業は、地主と企画者の相談から始まる。「経堂の杜」では、地主が相続税対策に迫られており、慣れ親しんだ森をなんとか残したいという思いが出発点であった。

それを実現可能にしたのが、コーポラティブ方式(建設組合方式)の採用である。これにより、建物を建てる前に、「環境共生住宅に賛同する人はいませんか」という呼びかけが可能になった。もし賛同者が集まらなかったら事業は白紙に戻せばよい。これに対して、不特定多数を相手にする分譲や賃貸では、事業リスクが大きすぎて特殊なコンセプトは打ち出しにくい。

しかし、コーポラティブ方式を採用する場合、土地を購入する段階で資金調達が難しいことが従来の課題であった。これに対して、スケルトン定借ならば土地を購入する必要がない。このため、資金調達が不要になるという利点がある。

つまり「経堂の杜」では、スケルトン定借の利点をうまく生かして、建物を建てる前に環境共生のコンセプトに賛同する人を集めることができた。このことが、思い切った設計を可能にした第二の秘密といえる。

建築家の責任は大きくなる?

ところで、以上のように設計の自由度が広がるということは、裏返せば、それだけ建築家やコーディネーターの役割が大きくなることを意味する。というのは、広い自由度の中で、どの程度で収束すべきかの判断が重要になるからである。とくに、コーポラティブ方式を採用した場合は、参加者の要望にブレーキをかけるのに苦労する例が見られる。価格の安さから費用に余裕がある人がおり、建築に対する要望を膨らませやすいからである。

このようなスケルトン定借の特性を甘く見ると、建築設計の収拾がつかなくなって大火傷をする。しかし、その特性をうまく活かせば、建築家やコーディネーターにとって、これほど強い味方はないのである。

「経堂の杜」について。

私は、スケルトン定借の開発者として、「経堂の杜」に事業の仕組みを提供し、無償で応援してきた。しかし、スケルトン定借は、分譲や賃貸と同じように事業方式のひとつにすぎない。この方式を用いてどのような建築を生み出すかは、建築家やコーディネーター、あるいは入居者の手に委ねられている。

全国第1号となった「メソードつくば」と東京第1号の「松原アパート」では、モデル事業として、私自身が建築計画に携わった。しかし、それらに続く東京での3つのプロジェクト(鶴見、目白、経堂)では、私は裏方にすぎない。はたしてどのような建築ができるのか、期待しつつ見守っていた。

「経常の杜」は、同時進行した3プロジェクトの最後に完成した建築である。ひとりひとりの個性が現れた自由な間取り、楽しげな共用空間、屋上の開放的な庭園、すべてが従来のスケルトン定借のイメージを越えている。

工期が3ヶ月遅れたと聞いたが、むしろ3ヶ月でよく納まったという印象であった。

外断熱や雨水循環の是非については、私は専門外でよくわからない。しかし、環境共生を求めようとする意欲は十分に伝わってくる。いずれ、この地域のシンボル的な建築になるであろう。

ひとつ気になった点を指摘すれば、個別インフィルの注文設計に合わせて開口部やスリーブなどのスケルトンを相当変更していることである。スケルトン定借というよりも、むしろコーポラティブ方式としての性格が強く出ているようだ。

もともとスケルトン方式には、住民参加の範囲をインフィルに限定することで、自由設計を合理的に運営する意図があった。逆梁工法もこのような原則のもとで活きるものである。

この原則を崩すと、建築設計者は神業的な調整を行わなければならない。完成した建物を見て、その調整がよく円滑に進んだものだと、関係者の苦労の痕跡と意気込みの高さを感じた次第である。

おそらく、「経堂の杜」プロジェタトにおいては、末永く残そうとする骨格(スケルトン)とは、実は北側のケヤキの大木であり、南緑地から北に吹き抜ける風という自然環境そのものなのであろう。その骨格は終始一貫して守られている。このように考えると、建物全体を柔軟に扱う設計方針は、実は合理的であったのかもしれない。

「定期借地権+環境共生住宅+コーポラティブ」という新しい集合住宅づくりを実現したグループとして、今後とも、このプロジェクトに携わった方々の活動を注目していきたいと考えている。

つくば方式。

都市の住宅問題を解決するために、建設省建築研究所で約8年の歳月をかけて開発されたもので、「建築譲渡特約付き借地権」に「家賃相殺契約」を合体して、老後まで低価格で安心して住むことを可能としている。

当初30年間は、建物は入居者の所有となり、転売もてきる。毎月の支払いは地代と修繕コスト。31年目以降は、建物を地主が買い取り、賃貸契約に変わる。その際、入居者の住居継続権は法律で保証される。建物の譲渡金と基本家賃を相殺する契約を締結するので、地代相当分と修繕コストの支払いで住み続けることができる。

61年目以降は、市場の相当の家賃に変更される。

 

参加者の立場から

村島正彦(「経堂の杜」管理組合副理事)

はじめに。

参加か=入居者として、この「経常の杜」について文章の依頼を受けたわけだが、まず最初に、私の立場と参加の経緯について簡単にふれておきたいと思う。

私は、都市計画シンクタンクに勤務し、行政の都市・住宅等に関わる計画策定のためのサーベイや、近年盛んになってきた協議会型市民まちづくりのコーディネートなどの仕事にかかわっている。仕事とのかかわりにおいて、都市における住まいのあるべき方向など、住宅や建築のこれからについて考える機会が多かった。いま、都市や住宅についていわれるさまざまな課題を解決する手法として、エンドユーザーである住まい手がかかわるコーポラティブハウスは一般解ではないとはいえ、有効な手段のひとつではないかと関心をもっていた。また、つくば方式についても同様に、土地活用、ストックの形成という観点から関心を持っていた。

そんなところに、「経堂の杜」のプロジェクトを、たまたま関係者から口コミで知ることになり、「これは参加しない手はない」と、参加を決めたのだった。

したがって、純粋に住まいを得る、マンションを買うということを前提に、このプロジェクトに参加したのではなく、ある程度知的な興味をもってアプローチしたといえるだろう。

参加者から見た「環境共生」というプログラム。

この「経堂の杜」は、都市・建築に専門的に関わる私から見て、さまざまな要素が入り混じっていると考えている。私はその渦中にいることもあり、いったいどのような社会的な位置づけになるのか、まだ冷静に見られない。

とはいえ、今回のプロジェクトの企画・コーディネートを行った甲斐氏による「環境共生」というキーワードは、このプロジェクトの重要な切り口であろう。

私自身は、「環境共生」に特別に思い入れが深い参加者ではなかったと思う。もちろん、エネルギー多消費型の社会・産業構造の課題、1997年に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)における温暖化対策への目標設定など、20世紀末に生きる者として、マクロな意味でその課題の大きさを認識している。

しかし、実際の自分の日々の生活を省みるにつけ、いまだ具体的な方策を見出せない、消費社会に組み込まれた一個人という認識である。

甲斐氏をはじめとした企画段階からの参加者はともかく、募集によって集まった参加者が、はたして「環境共生」に重きを感じて、参加を決意されたかどうかは、他者である私にはよくわからない。しかし、建設組合結成から竣工、入居までおよそ2年半のおつき合いの中から判断すると、私と同じように、「環境への貢献という点ではささやかなかかわりしかもてない」とお考えの方が多いように見受けられる。

この「経堂の杜」が、はたして「環境共生」なのかどうかについて、甲斐氏の見解と、設計者の見解、参加者=入居者の見解は、実はあまり深いところまで議論されてはいないことは、一参加者の立場から明らかにしてよいことではないかと思われる。また、実現された「環境共生」にかかわるハード、ソフトについても、盛り込むメニューの決定手順の不手際、設計者や参加者それぞれの認識の違いなどから不整合の部分も多々あるように見受けられる。

ただ、それでも今回のプロジェクトが注目されてよいのは、社会的な評価もまだ未確定な分野、プログラムに対して、参加者は限られた時間の中で学習を行い、その対価を投じて住まいの中に取り込むことを、それまで面識のなかった者同士が議論を重ね、合意し、実現に結びつけたという事実についてではないだろうか。

これからの都市における住まいについて。

このことを考えると、あながち「環境共生」という看板も捨てたものではなかった。

手前勝手ではあるが、今回この「経堂の杜」へ集まった参加者は、「環境共生」について、秩序立ててまじめな議論を行っていくだけの、知的なバックグラウンドと品格を併せもった方たちであったということができるだろう。

これからの住宅において「環境共生」という命題があることは、住宅供給者、住まい手ともに広く理解されているとはいえ、メニューについても宝石混淆のなか、具体的にどう取り組むという確たる方向はとくにない。そうした過渡的な状況のなか、一般の市民=消費者が、それも利害が混じり合う中で合意形成し、まがりなりにもひとつのかたらとしてまとめ上げたのである。

その意味では、現在の市場原理一辺倒の住宅供給のあり方について、一石を投じるプロジェクトに成り得たのではないかと、これは参加者として自負できることだと考えている。

おわりに。

今回の参加者は、「環境共生」だけでなく、インフィルについても、個々のライフスタイルやインテリアに徹底的なこだわりをもって臨んだ。外観についても同様である。このこだわりに対して、設計者、施工業者ともに最大限の努力をもって対応していただいた。設計を担当した邑計画工房、アトリエHOR、アトリエレッズ、外構設計のエービーデザィン、施工の守谷商会、その他講習会で左官工事を行ってくださった平西さんをはじめ今回関わっていただいたさまざまな方々のご苦労には敬意を表したいと思う。

また、「経堂の杜」を企画・コーディネートしたチームネットの甲斐氏は、生活者・住まいの消費者の側から、環境共生型のコーポラティブを発意し、事業全体についてリーダーシップを発揮し、本プロジェクトを成功に結びつけた。その成果は大きいものだと思う。

現在では、私たちの生活の場であるこの「経堂の杜」が、私たらの誇りとなる住まいになりえたことを喜ばしいことだと感じている。

これから住まい手である私たちは、植栽や屋上菜園の手入れを手はじめとして、つくば方式の理念からいえば、30年、60年、100年かけてこの住まいとともに成長を始めていく途についたところだと考える。

 

壁面緑化・屋上緑化・ビオトープ。

「経堂の杜」の植栽計画。

正木覚(エービーデザイン)

屋敷林再現からのスタート。

はじめて敷地を訪れたことを思い出す。ケヤキが大きくて、昔の農業形態の屋敷林の面影があり、木々たちがそれぞれ自然の形に帰ってきた。それはみずみずしく、緩やかな風が流れていて、思わず「こんな気持ちの良い場所に住みたいものですね」とつぶやいていた。

屋敷林は、農業生産のための人口林で、屋敷の屋根勾配の延長線上に防風林、作業をするための前庭、水路、防風垣、作物をつくる畑、雑木林へと連なっていく住環境を指す。

これらの流れるような一連の構成が、風を防ぎ、夏の日射を遮蔽し、微風や風の流れをつくり、人にとっても植生にとっても心地よい環境を形成していた。今回の「経堂の杜」では、農業生産としての屋敷林は必要ないが、屋敷林のもっていた環境コントロール機能を活かしていくべきだと思った。

敷地が挟いため、12世帯が住むとなると、垂直にのびた建物ができあがる。庭のデザインをしているときに私がよく意識することは、高木、中木、低木。地被類まで重層化した植生をゆるやかにつなぐことであるが、「経堂の杜」で垂直に緑化したり、水平に緑化したりして、地階から3階まで垂直にのびた建物を緑で覆ってひとつの「森」をつくることを考えた。それが屋上緑化、壁面緑化、水平緑化としてのルーバー、カントリーヘッジ、水路、ビオトープといった手法を生み出すことになる。

岩山を緑で覆う。

雨、風、目差しなど、自然は本来過酷なものである。しかし、それぞれの植物のもつ機能をうまく構成すろことで、その過酷な条件を緩和し、心地よい環境をつくることができる。

屋上まで10mあるということは、ひとつの岩山があるということ。山にたとえれば、1階はふもと、2階・3階は中腹、屋上は山頂である。1階と3階とでは環境条件が違う。遮熱も採光も考える必要がある。そこで、建物全休を緑が覆うように、フレームをつくることを考えた。屋上には屋上緑化、東四面は壁面縁化、南面はルーバー設け、落葉性のツタ類をからめることで、垂直方向に緑化し、遮熱、日除け、採光の調節をする。

壁面緑化はステンレスサッシュとタケの格子を組み合わせ、ルーバーにはL形鋼を用いた。表面の温度が高すぎたり低すぎたりすると、植物は伸びづらい。基本に鉄のフレームを使ったのは、暑がって植物が逃げて、それ以上外に伸びようとせず、内側に閉じこもろうとするからである。伸びてほしいところには、木や竹などの比熱の高くないものを混用する。

素材の使い分けをして、人工的にコントロールすることを試みている。

風の設計。

さて、2階、3階、屋上と上層に上がっていくにつれて、風が強くなっでくる。風除けのために、バルコニーや屋上の手摺りは、1m強のセイタカアワダチソウを編み込める構造にした。1階は、建物を取り囲むように、生垣ならぬカントリーヘッジ(カントリーヘッジはブルーベリーやキイチゴといっ灌木をからめて生垣状にしたもので、イギリスでは農場の垣根として用いられている植栽方法である。ブルーベリーやキイチゴといった果樹糸灌木、サザンカやツバキといった生垣に使われる灌木、ツキヌキニンドウやイタビカズラといったつるもの、ツタ類を混植状態にしている。)を植えて、防風垣とした。1階の南面は敷地を広くとって、雑木林風に高木、中木、低木、地被類をきっちりと植える。風はカントリーヘッジと雑木林によって微風となり、緩やかにルーバーの隙間をのぼって、室内へ屋上へと流れる。

屋上には遮熱のために緑化をしているが、挟い敷地では住み手ににとっては空中の広場。将来的には住み手が食べる楽しみ、育てる楽しみのための畑になる。建物か建てる時に出た土と人口土壌を混ぜて畑のための土壌をつくり、土の飛散を防ぐためにオチャノキとツゲの生垣を周囲に植えた。

水の設計。

そして、建物内には水を循環させている。屋上に溜まった雨水が3階の池、2階の池によって浄化され、1階へと流れ落ちていく仕掛けにしている。水は、気温のコントロールもでき、比熱の差によって風も生まれてくる。

池はビオトープを試みているが、本来川などの自然発生するところにつくるべきだと考えていたため、建物の上といった閉じられた空間につくる上では抵抗はあったが、水質浄化、気温の調節といった目的のために池をつくり、水を流すことにした。未経験のため、何が起こるかわからないが、現在池の底に泥を10㎝入れただけで、水が臭わない、腐らないということ驚嘆している。植物を植えて、種類を増やせば、効率よく水が浄化されていくのではないだろうか。また、浮遊性のホテイアオイなどは秋に枯れるため、毎年引き上げる必要があるが、それは畑の肥料としても役に立つことがわかってきた。

そして植物は人びとの心をつなぐ。

今回のプロジェクトの最大の収穫は、「人は植物から離れて暮らせない」という事実を身をもって体験したことにある。木々の経年変化によって季節の移り変わりを感じたり、1日の陽の移り変わりや水の流れ、風のゆらぎによって、人は自然のリズムに生活リズムを合わせ、ゆったりとしか時間の流れを感じることができる。それが心地よいであり、心の豊かさなのではないだろうか。植栽工事を始めて1ヶ月の間、目の前の光景が日々変わっていく姿を見て、住み手の表情がどんどん優しくなり、住民同士だけでなく近所の人との会話が生まれてきている。植物が人びとの心をつなぐ効果を改めて実感する。

エコロジカルというテーマは、環境とのつながり方と解釈されるが、もともとは植物も人もひとつのつながった存在である生命同士なのだと実感したプロジェクトであった。